井上あずみ

井上あずみ

石川県金沢市出身。1983年デビュー。
86年、スタジオジブリ・宮崎駿監督作品『天空の城ラピュタ』エンディング挿入歌「君をのせて」に抜擢され、澄み切った歌声と確かな歌唱力で一躍注目を集める。続く『となりのトトロ』では「さんぽ」「となりのトトロ」「おかあさん」「まいご」など、主題歌・イメージソングを数多く歌い、『魔女の宅急便』でもヴォーカルアルバムに参加、「めぐる季節」や「魔法のぬくもり」などを歌唱する。2010年にはユーキャンよりセルフカバーアルバム『Dear GHIBLI』、19年には人気コンサート『オーケストラで聴くジブリ音楽』のライブ盤をリリースしている。

『天空の城ラピュタ』(1986年公開)の「君をのせて」。
井上さんと、この曲との出会いは?

83年に、最初はアイドルでデビューをして、レコード会社もすごく力を入れて宣伝してくれたのですが、まったく鳴かず飛ばずでした。2年が経ち、事務所とも契約が切れて、イベントの司会をしたり、2時間ドラマのちょい役に使っていただいたりと、なかなか歌う仕事がもらえない時期でした。

知人と食事している時に「今、オーディションで決まらなくて困っている案件があるんだけど、試しに受けてみる?」と。
それが「君をのせて」のオーディションでした。私が最後の一人で、「もしイメージに合うように歌えなければ、もう間に合わないからインストゥルメンタル(歌なしの楽器演奏)にしよう」という話になっていたそうです。
なにしろ映画の公開は8月で、私のところに話がきたのが6月でしたから。今では考えられないような話ですよね(笑)。
きっと私のことを待ってくれていた楽曲なんだろうな、と思っています。もしこの曲に出会わなかったら、私は今、歌手でいられたかどうか…人生を変えてくれた大切な曲です。

ご自身の歌が、映画で流れているのをご覧になって、いかがでしたか?

試写会にお招きいただいて映画を観たんですけど、どこでどう流れるとか、まったく知らなかったんです。
途中で何度もメロディが流れたり、合唱で歌われたりするので「あれ?もしかして私の歌はカットになったのかも?もう映画終わりだし」と思い始めた最後の最後、最高の場面で流れまして。

ホッとする気持ちもありましたし、「うわー、こんなクライマックスで使われる歌だったんだ!」という嬉しい気持ちもありましたし、なによりも映画のラストシーンにぴったりの楽曲で心から感動しました。

続いて『となりのトトロ』(1988年公開)の主題歌もご担当されました。

『天空の城ラピュタ』の時は本当にギリギリに決まったので、作品のことはまったく分からないままで歌いました。
もしチャンスがいただけるなら、次はもっと初めの段階から関わらせていただきたいとレコード会社の方にお願いしまして。鈴木プロデューサーと宮崎監督にお話するお時間をいただいて、イメージアルバムを作る仮歌(曲の仕上がりをイメージする為のデモ音源に入れる歌)から参加させていただきました。

その当時、『天空の城ラピュタ』も「君をのせて」も今ほどのヒット作品ではなくて、歌手としては全然生活できないのでアルバイトをしながら頑張っていたんです。
昼間は喫茶店でアルバイトをして、夕方から久石譲さんのスタジオにうかがって歌いました。時には夜中までかかることもあって、体力的には本当にきつかったんですけど、まだ若かったことと、何より音楽をゼロから作るところを初めて勉強させていただけることが楽しくて、毎日が充実していたなっていう思い出になっています。

それまでは完成した曲を覚えて歌うということしかやってこなかったので、「作るってこんなに大変なことなんだ」と初めて知りました。
しかも、久石譲さんは一切妥協されない方なので、前日に夜中までかかって「よし、これでいこう」となっても翌日に「うん、なんか1日経ったらやっぱり違うなって思ったから」とまたゼロから作り直されるんです。
「1曲の歌を紡ぐというのはこういうことの積み重ねなんだ」と身近で感じることができて、本当に貴重な経験をさせていただいたと、今でも感謝しています。

そんな思い出いっぱいの『となりのトトロ』にも衝撃のエピソードが!?

こうして関わらせていただいたからこそのエピソードがありまして。この全集にも収録されている皆さんご存じの「さんぽ」、実は仮歌のままなんです。

合唱団の子たちが覚えるためにお手本として録音したのですが、最終的に「あずみちゃんの声が入っていた方が芯があっていいよね」ということになり、映画で流れる主題歌は、私のソロになりました。
録音し直さないでそのまま仮歌が使われたのは初めての経験で、びっくりしたんですけど、もし録音し直していたら、気負ってあの伸び伸びした感じでは歌えなかったんじゃないかな、と今では思います。

またいつなんどき仮歌を採用されるか分からないので、今でも仮歌から常に全力で歌うようにしています(笑)。

久石譲さんの曲を歌うとき、ここは難しい!ここが気持ちいい!などありますか?

それぞれの曲で難しいポイントと気持ちいいポイントが違うので一言では難しいのですが…。
例えば「さんぽ」は真っ直ぐ伸びやかに歌うのが気持ちよくて、それは初めにどういう歌い方をしましょうと相談した時に「子どもたちが大きな口をあけて、元気よく歌えるように」とご指示いただいたことそのままなのです。

でも実は、真っ直ぐ伸びやかに歌う、というのは案外難しくもあるんです。テクニックのある上手い歌い手さんの方がかえって難しいと感じたりするかもしれません。歌は、同じ曲を何年も歌い続けていると段々違う自分の癖みたいなものが出てきてしまうので、今でもなるべく最初のイメージを崩さないように、真っ直ぐ歌うように心がけています。
いつも「さんぽ」はコンサートの最初に歌うんですけど、気持ちよくパーンと歌えると、「よし!今日も頑張るぞ!」っていう気持ちになれます。

最後に『スタジオジブリ 宮崎駿&久石譲 サントラBOX』を聴く方へメッセージをお願いします。

私はここ数年『オーケストラで聴くジブリ音楽』というコンサートを木村弓さん・本名陽子さん・N響団友オーケストラの皆さんと全国各地で開催していまして、演奏曲目の半分くらいは映画のサントラを器楽のみで演奏するんです。そのオーケストラの演奏を聴いているだけでも映画の場面が映像で頭に浮かんでくるんですね。

ジブリ音楽の一番の魅力はこの映像と音楽が一体になっているところじゃないかなと思います。みなさんそれぞれに思い入れのある作品、思い出のつまった作品があると思いますし、もう何度も繰り返しDVDで観ているという方も多いと思いますが、こうして音楽だけに集中してその作品を堪能するという楽しみ方も素敵ですよね。

ジブリファンが待っていた!
久石譲が手掛けた、宮崎駿監督映画のサウンドトラック12作品。

いかがでしたか? 井上あずみさんが語ってくださったエピソードを読んで、耳馴染んでいた名曲たちを改めて聴き直してみたい、と思った方も多いのではないでしょうか。

井上あずみさんの歌う「君をのせて」(『天空の城ラピュタ』)、「さんぽ」「となりのトトロ」(『となりのトトロ』)はもちろん、宮崎駿監督の作品に使用された久石譲の音楽をたっぷりと楽しむことができるのが、『スタジオジブリ 宮崎駿&久石譲 サントラBOX』です。
作品ごとに12枚のCDにまとめた、大ボリュームのサウンドトラック集は、ジブリファンの方はもちろん、久石譲の音楽に魅せられている方にも、満足いただけるコレクション。

気になった方は、ぜひチェックしてみてくださいね。

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