「明治」「大正」をはじめとする元号の出典でもある『易経』は、
「占いの書」にとどまらず、人生のさまざまな局面における
心構えや対処法を示してくれる「指南書」でもあります。
『易経』研究の第一人者として講演活動などを行う竹村亞希子先生に、
『易経』から何を学び、これから先の人生にどのように生かせばいいのかをうかがいました。
『易経』は人生の「六十四の物語」
「当たるも
「占いは当たることもあれば、当たらないこともある」という意味です。
『易経』とは、この八卦と八卦を組み合わせた六十四卦(六十四種類の卦)について、述べられた書物なのです。
六十四種類の卦は、一つひとつが人生における場面設定のようなものです。
私たちが人生で遭遇すると思われるあらゆる場面と、その成り行きが示されています。
そうした場面に、どのような登場人物がいるのか。自分の立場はどこなのか。
人間関係やその力関係、心理状態はどうなっているかなどの設定に応じて、それぞれの物語(たとえ話)が展開されていくのです。
『易経』は、六十四の場面ごとに、決まった起承転結の流れがあります。
各段階には必ず前兆があり、その前兆を察知できれば、適切に変化へ対応できるということを、たとえ話で表現しているのです。
ただし、『易経』が示してくれるのはあくまでもヒントであり、「こう行動せよ」という明確な答えではありません。
では、『易経』が与えてくれるヒントをどのように読み取っていけばいいのでしょうか。
いくつかのキーワードを手がかりに、ご紹介していきます。
最初のキーワードは「時」。
――「時」の変化の法則を知る
「時」は、「状況」や「段階」を意味します。
人生には順調な時ばかりではなく、坂道を転げ落ちる時もあれば、どん底で苦しみを味わう時もあるでしょう。
このように「時」は「陰と陽」の働きによって絶えず変化している、というのが『易経』の根本的
な考え方です。
この「時」の変化には、
変易
「変易」は「変化」という意味で、この世のすべての物事、人も物も自然も、一瞬たりとも同じ時はなく、常に変化し続けている、ということです。
不易
「不易」は「変わらない」という意味です。すべての物事は変化しますが、その変化の仕方には一定の「不変の法則」があります。たとえば、季節は移り変わっていきますが、冬が過ぎれば必ず春が来る、ということは変わりません。
易簡
「易簡」は、「やさしくて簡単」 という意味です。「変易」「不易」の法則が理解できれば、何事も簡単にわかるようになり、悩みや問題も解決しやすくなる、ということを表しています。
こうした「時」の変化の法則に逆らうと、何事も成就しません。
人生に置き換えると、早く苦境を脱したいと焦っても仕方がない。
冬はしっかりと準備を整え、
春という「時」が来てから行動を起こす。
それが一番の近道、最善の道と『易経』は教えています。
二つ目のキーワードは「兆 し」。
――「兆し」を観る目を養う
「兆し」とは、まだ目には見えないけれど、物事のゆくえを暗示するものです。
『易経』は、「変化の前に現れる兆しを観よ」と教えています。
目に見えない「兆し」をとらえるには「観る目」、「観る力」を養わなくてはなりません。
「観る力」とは「見抜く力」、物事の本質を見極める洞察力です。
たとえば、冬至を過ぎても寒さは続き、気温だけを見ていると春の兆しは実感できません。
しかし、日脚は着実に伸びて春へと近づいています。この季節の変化の本質を見極めるのが、「観る力」なのです。
すべてにおいて、はっきりとした現象になる前に発せられる信号、すなわち「兆し」を観る目を養うことが大切だと、『易経』は教えています。
三つ目のキーワードは「時中 」。
――『易経』の根幹を成す「時中」
「時中」は、『易経』が非常に重んじている言葉です。
時中とは「時に中(あた)る」つまり「その時にぴったり」という意味です。
『易経』の教えの根幹は、時を読み、兆しを察して、その時にぴったり合った行動、
すなわち「時中」に沿った行動をとれば、人生の多くの問題が解決し、幸せになるというものです。
兆しを観る目を養えば、ツキがあろうがなかろうが、その時にぴったりの行いができる。
どんな時でも必ず「時中」がある。それを見極めることが大切だ、という考えが『易経』の根幹です。
すべては陰 と陽 から成り立つ
古くから中国には、物事の変化を生み出す大もとは「陰」と「陽」だという考え方があり、
『易経』の内容もこの陰陽論に基づいています。
たとえば人間は、男性が陽、女性が陰になります。
同じように、天が陽で地が陰、夏が陽で冬は陰、昼が陽で夜は陰です。
しかし、裏がなければ表もないように、どちらかがなければ、もう一方もありません。
女性がいなければ男性もいません。つまり「陰と陽」は表裏一体で、実際には一つのものなのです。
同じように人生の中にも、陰と陽が混在します。
『易経』では、身を縮めたり(陰)、伸ばしたり(陽)しながら前に進んでいく尺取虫にたとえ、
人間も来るべき時に備え、力を蓄えてこそ、前進できると説いています。
身を縮める陰の動きは、前に進むために必要で、縮めることを嫌がらずに一歩一歩進んでいく。
それこそが人間の本来の生き方なのです。
たけむら・あきこ/昭和24 年、愛知県生まれ。東洋文化振
興会相談役。
中国古典『易経』を、占いではなく古代の叡智の書としてわかりやすく紹介。
企業経営者などからも厚い信頼を得ている。
NHK 文化センター講師。主な著書に『人
生に生かす易経』『「易経」一日一言』などがある。
CD 集『竹村亞希子の「易経入門」64 の物語に学ぶ生き方』に出演。
さらに詳しく『易経』について知りたいと思った方へ、
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