あたたかみのある仏画で知られる西村公朝先生は、
僧侶、教師、仏師、仏像修理の技術者というさまざまなお顔をおもちでした。
そんな西村先生が描かれた仏画『釈迦の説法』を題材に、「お釈迦さまの放つ光」というテーマで伺ったお話です。

西村公朝

にしむら・こうちょう/大正4年大阪府生まれ。東京美術学校(現東京芸術大学)彫刻科卒業。東京芸術大学教授を経て、愛宕念仏寺住職、東京芸術大学名誉教授、吹田市立博物館館長を務めた。著書には『仏の世界観』『やさしい仏像の見方』『仏像の声』などがある。平成15年逝去。

やさしいお釈迦さまを――

仏画『釈迦の説法』について

▲釈迦の説法 西村公朝画 1999年
写真提供:愛宕念仏寺

『釈迦の説法』はお釈迦さまが菩提樹ぼだいじゅの前でくつろぎながら十大弟子にお話をしている様子を描いています。
だから、いわゆる修行中の厳しい釈迦如来の像ではなく、にこやかなお釈迦さまから、安心感や、お顔を見ているだけでありがたいという雰囲気が出れば、と願って描いたものです。

私の仏画はいつも子供が描いたようなマンガ的に見えますが、実は私にとって、この表現に苦労しているのです。
それはお釈迦さまというと堅苦しく偉い存在のように見えますが、本心はやさしいのです。
だから、できるだけ気軽な、身近にいる子供と話をしているような雰囲気の仏さまにしたいと思っています。
ですから、寺にいる孫がマンガのようなものを描いているのを見ると、そこからヒントを得ることもあります。

仏像の表現に宿る「厳しさ」と「やさしさ」

人々を救ったり教化していくためには、「厳しさ」と「やさしさ」この二面が必要です。
たとえば子供が危ないことをしていると、お母さんは必死になって怒ります。
そのとき子供から見るお母さんはこわい顔です。
しかしそのお母さんの顔はその子を救いたいという強烈な慈悲の表情なのです。
でも子供というか、私たち衆生しゅじょうの立場からいいますと、やはり、やさしいお母さんのほうがありがたいのです。
そういう意味で、なるべくやさしくて親しみやすい、気軽にねだれるお母さんのような、
そんな仏さまを表現したいと願っているのです。

智慧と慈悲の光を放つお釈迦さま

お釈迦さまのおでこには白い毛が一本ありました。
これを白毫びゃくごうといい、造形では白い珠を入れます。
白毫にはお釈迦さまの慈悲の光が表現されています。

また、お釈迦さまの頭頂には隆起したこぶがあって、これを肉髻にっけいといい、その前面中央に肉髻珠にっけいじゅという赤い珠があります。
ここからは、智慧ちえの光が放たれています。
お釈迦さまの分身のような存在を化仏けぶつといいますが、その化仏も肉髻珠から発射されます。

たとえば、私は、智慧によって話をします。
相手も智慧によって話を聞き取って、自分なりに理解しようとします。
智慧で話すということは、智慧が飛んでいく、私の化身がその話し相手に飛んでいくことです。
このようにお釈迦さまは、白毫と肉髻珠から放たれる智慧と慈悲の光とで衆生を照らしてくださっているのです。

『釈迦の説法』では真ん中にいるお釈迦さまの身体から光明がパーッと四方八方に発射され、その光を正面から受けて、前に坐る弟子たちは、背面に影ができています。
この弟子たちの影でお釈迦さまの光明を表現したのです。
その光を浴びて弟子たちはきっとなにもいわずに無心で合掌したことでしょう。

▲釈迦如来像
写真出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

お釈迦さまの教え、つまり仏法の光が、十大弟子を照らし、そしてここには描いていませんが、お釈迦さまを取り巻く何千何万という大衆を、さらに今日の私たちをも照らしてくださっているということを私は表現したかったのです。

十大弟子を通して見えるお釈迦さま

仏画『釈迦の説法』では、お釈迦さまの前にいるのは十大弟子です。
だから十人しかいませんが、この絵を見てなんだかもっとたくさんの人がいるように錯覚する人もいるようです。
見る人一人ひとりが「あの中に自分もいるんだなあ」と感じてもらえればありがたい、と思っています。
お釈迦さまのことばは、お経になって残されていますが、 お釈迦さまの日常生活というような姿はお経には出てきません。
しかし、十大弟子を調べてみますと、お釈迦さまが見えてくるのです。
お釈迦さまの教えは十大弟子を通して衆生に広まり、人々はまた十大弟子を通してお釈迦さまを見るのです。

仏像の祈り DVD全11巻

西村公朝先生の解説で、仏像に込められた願いを知る映像集。
この映像集では、仏像をあくまで仏教という信仰の中に位置づけてご紹介。どのような意味や願いが込められているのかが、おわかりいただけるよう解説されています。
解説を務められた西村公朝先生は、東京芸術大学名誉教授であったと同時に、お寺の住職、さらに彫刻家でもありました。
様々な視点を持ちながらも、あえて信仰の対象という仏像造立本来の立場を大切にした西村先生のわかりやすい解説が随所に入っています。

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