知っているようで知らない「昭和の日本軍と太平洋戦争」〜半藤一利氏 特別インタビュー〜

※このインタビューは「太平洋戦争」(第1巻〜第10巻)
完成当時の2006年に行われたものです。

若い人が知らないのは当然の事。まず映像で知るのはいい方法だと思う

学校では戦争の詳細について教わらないようです。

確かにいろいろな考え方があるから、学校で近現代史を教えるのは難しい。でも今の若い人は戦争についてあまりにも何も知らないね。そして知ったら驚く。「えっ! 何でこんな無謀な戦争をしたの?」「こんなに人が死んでしまったの?」当然です。でも、勉強しなさい! なんて言ったってしょうがない。あまりにも時代の常識が変わってしまったからね。「大本営」や「軍令部」という基本的な言葉も知らない。

そんな歴史認識で本を読んだってイメージできない。だから若い人にとって、映像で知る、これをきっかけに学ぶというのはとてもいいと思いますね。私はそうやって知ってほしいと願っている。基本的な事だけでも知ってほしいね。

時代の常識が変わっても、起こり得る事の本質は変わらないんだよ。
たとえばあなたはこの戦争で、何人の日本人が死んだと思う?

陸海軍将兵だけで約212万人と聞いています。

その中で実に70パーセントが広義の餓死だよ、栄養失調など含めてね。それから約36万人の人が水没死、戦場に運ばれる前に海の上でアメリカ軍に攻撃されて亡くなった。戦って死んだわけじゃない、何もしないまま亡くなったんだ。あまり普通の人は知りませんね、こういう事実を。
なぜこんな事が起きたかって? それは当時の指導者が無責任だったからですよ。軍隊ではエリートだったかもしれないが、頭でっかちのごく一部の人が権力を持って、机の上だけで作戦を考えて、「この部隊はあっちへ」「こっちへ」と指図したからです。

半藤一利

若い人は、先祖がやった事は自分とは関係ない、責任がないと考えるかもしれない。でもそれは違う。昔あった事が今の自分たちに影響を与え、そして今の自分たちがまた後世に影響を与える。歴史的事実としての太平洋戦争を一度は見ておいてほしい。そうしないと知らず知らずのうちに繰り返す可能性もある。

「特攻の父」と呼ばれた大西滝治郎中将。終戦の時に責任をとって切腹したが…

「戦争の解説をする事は戦争賛美につながるのでは」「悲惨な戦争の映像なんて見たくない」といった意見も時々耳にしますが…。

歴史を正しく知らないと、歴史から学ぶ事はできない。戦争について調べたりする事で戦争が起きる事はないんだね。むしろ反対で戦争防止につながるというのが私の意見です。知る事が学ぶ事の最低の条件。過去の事実を知れば、次の時代に照明を当てる事ができる。新しい時代に平和の展望を持つ事ができる。だから、「イヤだから知りたくない」というのは、学ぶ姿勢とは言えないのではないだろうか。幼すぎます。

例えば特攻作戦。亡くなった若者たちはみな志願と伝えられるが、歴史を丁寧に解きほぐしてゆくと、実際には軍令部で計画されたものと言えます。軍隊で上が計画するという事は命令すると同じ。「特攻の父」と呼ばれた大西滝治郎中将が、敗戦の時に責任をとって切腹し、美しく語られる事もあるが、彼だけが作戦を考えたのではない。彼がフィリピンに行って志願者を集める前に軍令部の参謀が既に電報を出している。その中で「神風特別攻撃隊」という名前も決まっている。

私の考えでは、大西さんも犠牲者の一人です。上層部の総意で「志願」という形式で、若い人に爆弾を抱かせて燃料半分で行け、と特攻攻撃を命じた。そうした経緯を知らないと、似た事が起こるかもしれない。いつの時代でもありえる事だと受け止めざるをえない。

景色

今まで深く考えた事がありませんでした。

あれは命令じゃなくて志願だ、志願だ、と関係者は言う…。口では「申し訳なかった」と言う…。確かに若者は純粋でした。だが軍の上層部の人間にとって若者は単なるコマだったのではないか…。
連合艦隊司令長官・山本五十六大将は「自分がじかに命令できない作戦は行ってはならない」、つまり自分で責任がとれない命令を下してはいけない、と言ったと伝えられているけれど、実際には責任のとれない命令をして、しかもそれを隠した人々がいたという事。重たいねえ。辛いけれども、知っておかなくては。歴史とは、そういう裏がいっぱいのものじゃないですか。

兵隊さんだって他の部隊の真実はわからない。戦争体験を語り継ぐ難しさ

この作品が、戦争体験を語り継ぐ材料になってくれたら嬉しいのですが…。

そうしてほしいですね。大賛成です。実を言うと…戦争体験を話す、書くという事は、なかなか個人単位では難しいものがあるんですよ。

それはどういう意味でしょうか?

君たちのように生まれた時から平和な時代に生きた世代に分かってもらえるだろうか。
つまりね、あまりにも辛い体験をしたした人は、二度とあの頃を思い出したくないという場合もあるし、他人に言えない何かを抱えている人もいる。自分の部隊の事は分かっても、昔の兵隊さんは作戦の全体像も知らされていないし、他の部隊の事はわからない。作戦計画の全体が見えていない。だから何重にも壁があるんだね。誰かに言いたくても、書きたくても、うまく伝えられない場合だってあるんだよ。
客観的に上手に戦場の模様をしゃべることができる人は、実はその現場にいなくて又聞きだったりするケースもある。
しかし、この作品では兵隊さんの生の声も多く入っているね。書籍からの引用が大部分だが、今では手に入りにくい手記や手紙も入っている。これも作品の良い点だと思いますね。

最後に、これから『太平洋戦争』を見る人にメッセージをお願いします。

今から数十年前、昭和の戦争を調べ始めた頃、「半藤は本当に『反動』だなぁ」なんて駄洒落で友人にからかわれました(笑)。日本がせっかく平和で豊かな新しい社会になろうとしているのに、戦前の軍隊を研究するなんて、過去をほじくる、古臭いヤツと思われてしまったんですよ。
でも、今こそ平和を大切にする人に言いたい。知らない事の方が危険です。まずは虚心に歴史そのものを見て欲しい。私は日本がいつまでも平和で穏やかな国であってほしいと思っているのです。

本日はどうもありがとうございました。

長年知りたかった事実が、貴重な映像資料で明らかに。
太平洋戦争

あの時、何が起きていたのか…。
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