小学生の頃から歌の天才少女として活躍されていましたが、当時はどのような活動をされていたのですか？

よく「のど自慢」に参加したり、商店街やデパートの歌謡ショーなどイベントにも出演したりさせていただいていました。もちろん学校の勉強もあるのでとにかく忙しかったのですが、皆さんが喜んでくださるのが嬉しくて、辛いと思ったことは一度もなかったですね。

そんななかでも、生涯忘れられない思い出になったのが、美空ひばりさんの特別公演に参加できたことです。子役のオーディションに合格し、1ヶ月間ひばりさんと一緒の舞台に立てるとわかったときには、天にも昇る気持ちでした。

天童さんにとって、美空ひばりさんはどのような存在だったのでしょう？

唯一無二のスターです。歌手であると同時に女優でもあり、舞台や映画で様々な人を演じることができる稀有な才能を持った方。舞台でひばりさんのたたずまいを間近に見て、その華やかさと歌唱力に圧倒されながら、毎日ワクワクしたりドキドキしたり、勇気づけられたりしました。子どもながらに「歌の力ってすごいなぁ」と感じたことが、歌手になりたいという私の夢の出発点になりました。

天童よしみさんの歌手人生を変えるきっかけとなった、「道頓堀人情（とんぼりにんじょう）」。この楽曲とはどのように出会われたのですか？

これは本当に不思議なめぐり合わせだと思っています。デビューして5年目に大阪に戻りましたが、そのまま東京にとどまり続けていたら、出会えなかった曲かもしれません。

レコード会社の方から「よしみちゃんにしか歌えない歌だと思う」と連絡をいただいて、届いたデモテープを聴いたときには、「ああ、こういうぶっつけ演歌が歌いたかった！」と胸が熱くなりました。美しい着物で歌う哀感のある演歌も魅力的ですが、「道頓堀人情」のような気骨のあるまっすぐな演歌が、そのときの私の心にジーンと響いたんですね。詞の内容が私の境遇と重なって、まるで自分自身への応援歌のようにも感じました。

その後、ミリオンセラーとなった「珍島物語（ちんどものがたり）」も、とても印象的な楽曲ですね。

それまで歌っていた演歌とは違う、ポップス歌謡に近い曲調なので、「天童さんっぽくない」という人もいて、私にとっては大きなチャレンジでした。でも、それが演歌の枠を越え幅広い層から支持されることにつながって、100万枚を超えるヒットになりました。さらには、日本・中国・韓国の競作として、それぞれの国の歌手が歌ったことで、アジアに知られる曲となりました。「珍島物語」がヒットし、改めて新しい自分に挑戦していくことの大切さを実感しましたね。

お話を伺っていると、「一つのイメージにおさまるのではなく、挑戦する機会を活かそう」という姿勢が感じられます。

そうですね。たとえば、ご縁があって、シンガー・ソングライターの半崎美子さんが作った「大阪恋時雨」を歌わせていただいていますが、これはソウルバラードに近い曲です。こぶしも一切使っていません。それで、今まで演歌は聴かなかったけど、この曲は好きだという反応もたくさんいただきます。

だから、むやみに線引きはしたくないと思います。もちろん私は演歌が大好きだし、私の本分は演歌。しっかりと演歌を歌い続けていくという思いに揺るぎはありません。ただ、もっとくくりを大きくして、多様性に富む演歌の世界を皆さんに提供できれば、さらに楽しさが広がるんじゃないかと感じるんです。「これは正統派の演歌っぽくないから歌うのはやめよう」「ここまで冒険しなくても」などと守りに入ったら、進歩がありません。ファンの方々にはいつでも新鮮な天童よしみを楽しんでいただきたいし、私自身も楽しんで歌っていきたい。たとえジャズ風に歌っても、「私が歌えば演歌なんだ」という気持ちで歌っています。