中山千佐子(なかやま・ちさこ)プロフィール 東京都生まれ。慶應義塾大学文学部英米文学専攻卒業。ニューヨーク大学教育学部大学院修士課程修了。ヒューストン大学教育学部大学院博士課程単位取得。現在、東海大学教授。専門は第二言語習得論、英語教授法。
シャドーイングは今、一般の人たちの英語学習法として大いに注目されています。その理由は、シャドー(影)のように英語の音の後を追って発音を繰り返すことによって、英語のイントネーション、強弱のポイント、ポーズの入れ方などに注意を向けることができ、英語のリズムを習得しやすいためです。
英語が聞き取れない、話せない、と感じている方は、英語のリズムそのものがわかっていない場合が多くあります。通じる英語を話すためには、単語と単語がどのようにつながって発話されるか、どのように強弱をつけて発話されるかなどを理解することが大切です。
これらは、文章を黙読したり、ひとつひとつの単語の発音練習をしたりするだけでは習得できません。何よりも文単位で発話される英語の音を、できるだけ同じように繰り返してみるシャドーイングが適しています。また、自分の口を動かして、能動的に学習することで集中力が高まり、英語らしいリズムが体感しやすくなるため、初心者も楽しみながら学習することができます。
私は15年以上前から大学の英語授業の一部にシャドーイングを取り入れています。日本人は文字から英語に入ることが多いため、どうしてもひとつひとつの単語の発音に気をとられてブツ切りになったり、平坦な発音になりがちです。リスニングが苦手、という学生は、聞こえてくる音と、自分が英文を見てイメージする音のギャップが大きすぎることが大きな原因であると思われます。
大学の授業では、シャドーイングの後、自分だけで音読させます。これを何度も繰り返していくと、徐々にリズムがつかめてきます。最初はぎこちなかった学生も、根気よく何度も繰り返すうちに徐々に慣れ、いつしか英語らしいイントネーションで発話することができるようになります。自分が発話できるということは、聞き取れている証拠です。つまりシャドーイングは、リスニングとスピーキング、両方の能力を向上させることができる学習法なのです。
たとえば電車やバスの中で、日本語に続いて英語のアナウンスが併用されている場合がありますね。毎日のように聞いていると、なんとなく意味がわかり覚えたような気になることもあるでしょう。でも実際に、誰かに「そのアナウンス、英語で言ってみて」と言われたら、きっとうろ覚えで戸惑うはず。つまり、ただ聞き流しているだけではその英文を自分の力だけで復元することは難しいのです。
英語を使えるようになるためには、何よりも自分の口を動かして英語を発話し、体に覚えさせることが一番です。『スピーク・マスター』は、英語に苦手意識があったり、久しぶりに触れる方にも取り組みやすいように、短くて平易な英文を厳選して使っています。そしてそのどれもが、リピーティングやシャドーイングして覚えるにふさわしい、実際に使える英文ばかりです。英語の音に合わせて繰り返し練習してみてください。ひとつの文を習得すれば、それがいろいろなシーンで応用できます。